大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和29(オ)847 判決

主 文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理 由

論旨第一点について。

原判決によれば上告人は倉庫業者であり、本件受寄物の返還につきかかる業者と

して当然払うべき注意義務をつくさなかつたものであるから、上告人において、本

件受寄物の返還につき訴外会社に被上告人を代理する権限ありと信ずべき正当の事

由があつたものということはできない旨判示しているのであつて、原審の確定した

事実関係の下においては、原審の右判断は正当と認められる。また原審が「前示訴

外会社は商法五〇四条、五〇五条の規定により特にその委任がなくとも有効に本件

寄託物の返還を受け得る」との上告人の主張を排斥したのは、本件寄託契約は右訴

外会社が代理人として被上告人の為にすることを明示して上告人との間に締結され

たものであるに拘わらずその寄託物が被上告人を代理する権限なき右訴外会社に返

還されたのであり、そしてある目的物件を寄託することを委任したからとてその寄

託関係の終了を前提とする寄託物の返還を受けることまでもその委任の範囲内にあ

ると解し得ないこと勿論であるから、本件には前掲商法の規定は適用なしとしたこ

とに基ずくものであること明らかである。その原判旨は正当であり、論旨は採るを

得ない。

同第二点について。

原審が「被上告人は訴外D紙業株式会社に対し本件仙貨紙を担保として約四〇万

円を貸与し、その担保品たる仙貨紙は同会社を代理人として上告会社E支店に被上

告人名義で寄託せしめた」旨の事実を認定していることは所論のとおりである。し

かし、右にいわゆる担保の供与が質権の設定であるとの事実が原審で主張された形

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跡は記録上認められず、もとより原判決もかかる事実を認定してはいない。しかも

被上告人の本訴請求はかかる質権の侵害に基ずく損害賠償を求めるものではなく、

単に本訴当事者間に成立した寄託契約上の目的物返還債務の履行不能に基ずく損害

賠償の請求であり、そして原審は被上告人主張の事実を認め、その事実関係の下で

は上告人はその責に帰すべき事由により本件寄託物返還債務の履行を不能ならしめ

たものであり、これに基ずきその当時における目的物の時価相当額の損害を賠償す

る義務ある旨判示しているのである。それ故本件仙貨紙に質権が設定せられていた

ことを前提とする所論は原判旨に副わない非難を試みるに止まり採用の限りでなく、

また被上告人が訴外会社を代理人として本件寄託契約を締結したか否かという事実

は上告人の前示債務の不履行、損害の発生及びその数額等の点に関し、何等影響を

来たすべきいわれはないのであるから、所論過失相殺の主張を排斥した原判決に所

論の違法ありということはできない。論旨はすべて理由がない。

同第三点について。

原審は事実審としてその裁量の範囲内で適法に証拠を取捨選択し、挙示の証拠に

よつて判示事実を認定したものである。そしてその事実認定はその証拠の内容に照

らし肯認することができ、その間、所論のような経験則違反は認められない。され

ば論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと

おり判決する。

最高裁判所第一小法廷

裁判長裁判官 入 江 俊 郎

裁判官 真 野 毅

裁判官 斎 藤 悠 輔

裁判官 岩 松 三 郎

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